保育のお仕事パーフェクトガイド

「子どもに媚びない!」詩人の故谷川俊太郎さん

昨年逝去された詩人・谷川俊太郎さんは、「心がほっとするような絵本」に対してあまり好意的ではなかったとされています。
3人目の妻で絵本作家だった佐野洋子さんの息子であり、イラストレーターとして活動する広瀬弦さん(56)と、谷川さんと45年以上の交流があった児童書専門店の店主・増田喜昭さん(74)が、その創作姿勢について意見を交わしました。
子どもたちに絵本を読み聞かせる時に、谷川さんのメッセージをちょっとでも思い出してみてください。
(※2025年4月4日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)

ユーモアと斜めの視点、谷川俊太郎さんの創作哲学

広瀬さんは、かつて谷川俊太郎さんに
「頭の良い人とはどんな人ですか?」
と尋ねたことがありました。
そのとき谷川さんは
「ユーモアを持っている人じゃないかな」
と答えられたそうで、「なるほど」と深く印象に残ったと語ります。
増田さんは、谷川さんが手がけた童話の中でも『あな』という絵本に特に心を引かれたといいます。
物語の中で、お父さんが「なかなかいいあなができたな」と言えば、ひろしは「まあね」とそっけなく応じる――このやりとりに、不良のような若者の萌芽を感じたそうです。
「谷川さんだけが、ああいう風に自然体で書けたんです。斜めの角度から描くような作風でしたが、それでも子どもたちはついてきた」
と話します。
広瀬さんは、
「多くの人が“良い子になれる、心が温まる本”を作ろうとしがちなんですよね」
と述べます。
それに対して増田さんは、
「でも、それだけで本当に良いのでしょうか? 谷川さんは常に違う視点で見ていました。だから彼の作品は読むのも販売するのもとても心地よかったんです」
と語ります。
そして、谷川作品にはイラストレーターの和田誠さんや絵本作家の長新太さんとの革新的なコラボレーションが加わっていたことにも言及しました。
1976年に発表された『わたし』という作品では、母親が新聞を読み、父親がエプロン姿でみそ汁を作っている描写がありますが、これは長新太さんが意図的に描いたものだと説明されました。
最後に広瀬さんは、
「谷川さんも佐野洋子さんも、子どもに媚びるような安易な作品を一切書かなかった」
と語り、その真摯な姿勢に改めて敬意を表していました。

言葉の力と絵本の革新、谷川俊太郎さんの新しいアプローチ

増田さんは、
「谷川俊太郎さんは絵本の世界に新風を吹き込んだ存在でもありました」
と語ります。
広瀬さんは、
「佐野洋子さんは物語を紡ぐ作家でしたが、谷川さんは絵本そのものをひとつの仕組みとして捉えていました。詩の創作とはまったく異なる視点です」
と述べます。
増田さんは、
「谷川さんは、言葉を単なる記号として巧みに並べることができる方でした。そして、画家が物語を創ることを前提に、自由に発想できるような独自の言葉を紡ぐことができる稀有な存在だったと思います」
と語ります。
広瀬さんは、
「『これはのみのぴこ』という作品も画期的でした。和田誠さんとの共作で、ページをめくるごとに文章が少しずつ長くなっていくんです。まさに発明でした」
と話します。
また、増田さんは1972年の『かっきくけっこ』にも触れ、
「ひらがなを使った作品で、“だぢづでどどど”といった音を声に出して読むだけで、子どもたちは自然と楽しさを感じるんです。音の魅力を活かした作品でした」
と語りました。
広瀬さんは、
「赤ちゃん向け絵本『まり』を共に制作した際、谷川さんは“赤ちゃんが反応するとはどういうことか”という視点で真剣に考えていました」
と振り返ります。
増田さんはさらに、
「『まり』のキャラクターに眉毛を加えたことが印象的でした。子どもはそうした細かい部分をとてもよく見ているんです。谷川さんは常に豊かなアイデアを持っていて、ページをめくるリズムを大切にしながら、画家がのびのびと描けるような言葉の余白も意識していました。絵本作家にとって苦手とされがちな“言葉”の部分を、谷川さんは自在に操っていたと思います」
と締めくくりました。

絵本の未来へ谷川俊太郎さんの精神を受け継ぐために

広瀬さんは、
「谷川俊太郎さんは、常に斬新な表現を模索し、企画力とプロデュース力を駆使して新たな世界に挑んでいました。ところで、最近の絵本についてどう感じますか」
と問いかけます。
増田さんは、
「現在の絵本は“心が温まる”という方向性が主流です。ただ、谷川さんがいなくなった今、私たちは“これから子どもたちをどこへ導くか”という視点を持たねばなりません。ひとつの課題はスマートフォンによる読書離れです。親が本を読む姿を子どもに見せることが大切ですし、ページをめくるという行為は、新たな扉を開くようなものです。谷川さんを驚かせるようなものを作り出す必要がありますね」
と語ります。
広瀬さんは、
「自分も努力しなければと思います。谷川さんが示してくれたように、絵本にはまだまだ新しい表現の可能性があると信じています」
と続けます。
増田さんは、
「絵本の売上が減少している今だからこそ、作り手には発明的な精神が求められます。でも、谷川さんのように、楽しみながら、余裕を持って取り組まなければなりません。谷川さんは本当に“絵本が好き”な人でした」
と振り返ります。

広瀬さんは、「才能とよく言いますが、それは“どれだけ好きか”という熱量のことです。本当に好きであれば、自然と努力も惜しまないはずです」と語ります。
増田さんは、
「谷川さんが生涯をかけて伝えてきた“日本語って楽しい”“言葉って面白い”という感覚を、次の世代の子どもたちに引き継いでいく必要があります。谷川さんが残してくれた言葉を、私たちが次に届ける。それが恩返しになると思っています」
と話します。
広瀬さんも、
「その想いを、私たちが引き継いでいかなければいけませんね」
と応じました。
最後に増田さんは、
「子どもたちには真剣に向き合い、質の高いものを届け続けたいです」
と強く語りました。